かいじゅうたちのいるところ

【BOOK REVIEW】

モーリス・センダックかいじゅうたちのいるところ』神宮輝夫訳(1975年,冨山房)

こんにちは。皆さんはよいクリスマスを過ごしましたか?私はというとまさかのインフルエンザに倒れ、とても切ないクリスマスでした…。まだまだ流行っているようですので、皆さんウイルスにはどうぞお気をつけください。

さてさて。今回ご紹介するのは、モーリス・センダックの名作絵本『かいじゅうたちのいるところ』です。もうすぐ映画化作品が日本公開されるとのことで、久しぶりに読み返してみました。

物語の冒頭、主人公の少年マックスは夜に狼の着ぐるみを着ていたずらをします。お母さんに怒られて寝室に放り込まれたマックスは、いつのまにか不思議の世界に入り込んでいきます。どこかから運ばれてきた船に乗ってどこかから打ち寄せてきた波の上を何日も何日も彷徨い、そうして1年と1日が過ぎた頃、ついにかいじゅうたちの世界にたどり着くのでした…

私が感動するのは、マックスが不思議の世界に入り込んでいくときの演出です。最初は広かった絵の周りの余白部分が、ページをめくる度にどんどん狭まって、マックスが完全に異界に入り込んだとき、ついに余白がなくなる。少し気味が悪いような、心からわくわくするような。現実と幻想がじわじわと交じり合っていく様子を、実に見事に表現していると思います。

マックスとかいじゅうたちが「かいじゅうおどり」を踊るシーンも面白い。突然文字が一切なくなり、ページいっぱいにかいじゅうたちの奇妙なダンスが広がります。小さな頃、いつもこのシーンが楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。かいじゅうのギョロっとした目や鋭い爪や牙、生々しい鱗の描写なんかを見ると、心の奥の方がぞわーっとして、何だか新鮮な満足感に満たされるのです。“怖いもの見たさ”みたいなものでしょうか。この独特な迫力は他の絵本ではちょっと味わえません。私は、こういった圧倒的な幻想体験こそ子どもにとってとても大切なものだと思っています。

映画を見る前にまずは原作の世界を存分に楽しんでおきたいところ。著名な絵本なので読んだことのある方も多いかと思いますが、この機会にもう一度目を通されてみてはいかがでしょうか。

Text by NANASE