躍動するイメージ。

【ART REVIEW】

今日は東京都写真美術館で開催中の「躍動するイメージ。石田尚志とアブストラクト・アニメーションの源流」をご紹介します。アニメーション誕生当時の古典的映像装置から現代日本の映像作家・石田尚志の新旧作まで、抽象アニメーションの歴史を幅広く紹介した展示です。

会場に入るとまず目に入るのは、フェナキスティスコープ(驚き盤)をはじめとする様々な古典的視覚装置。小さな隙間から回転盤を覗くと、描かれた静止画がまるで生きているかのように動き出します。当たり前のことのように思えますが、映像があまりに一般化した今日、我々は「ものを見る」という行為の神秘性についてどれだけ意識しているのでしょうか。アナログ感の漂う初期アニメーションは、現代を生きる我々に改めて視覚の不思議さと面白さを強烈な“感覚”として思い出させてくれるような気がします。

今回の展示の核となるのは石田尚志の映像作品。中でも特に印象的な2001年制作「フーガの技法」は、J・S・バッハの同題曲を有機的な曲線と光の舞踊によって表した映像作品です。綿密な計算に基づいて原画を楽譜の構造へ重ね合わせ、一コマごとに撮影。この作品を支えるのは、一方的な古典音楽への憧憬というよりはむしろ時代や媒体を超えた異物同士の静かなる欲情であり、感傷と神秘に満ちた旋律、線と光の抽象表現の協演は“異質の溶け合い”のみが生み出す圧倒的な陶酔と歓びを感じさせます。一瞬一瞬が多様な発見に溢れ、必然のような偶然のような、奇しき感動が心を奪います。

作品数はそれ程多くないものの、はじめから終わりまで、濃密で心地好い時間を堪能できる展示でした。来月7日まで開催しているので、機会があればぜひ訪れてみてください。

Text by NANASE