「MALIO GIACOMELLI」展

【ART REVIEW】

こんにちは。
今日は先日見たアマチュア写真家の先駆ともいうべきマリオ・ジャコメッリの展覧会を紹介します。イタリア北東部に生まれた彼は、生涯印刷業を営みながら撮影を続けました。

彼の特質を語るに最も適した作品は、《私には自分の顔を愛撫する手がない》だと思います。漆黒の僧衣と雪景を得意のハイ・コントラストで描写した象徴性の強いモノクロ写真です。タイトルの詩的な表現も特徴的です。元は異なる題でしたが、ある詩の一節を引用したことで、イメージに内包される自らよりも他者に多くを与えんとする宗教者の憂いという精神性が増幅されています。また他作品の被写体は田園風景や老人ホスピス、ジプシーなど様々ですが、多くは居住地もしくは近郊で撮影されました。彼にとって最もリアルで生々しかったであろう、「生」のかたちが白と黒で浮き彫りにされています。

彼が撮影を始めた頃のイタリアは、「周縁のゲットー」と称されるほど文化的に孤立していました。写真家が生業として成立するのがいかに大変だったかは想像に難くないです。更に「芸術としての写真」が大衆から評価を得るには程遠い状況でした。アマチュア写真家は現在とは全く異なる意味合いを持っていたかもしれません。しかしたとえ彼がプロであったとしても、ジャーナリスティックな手法に拠らずして、「主観的リアリズム」という新たな表現の可能性を写真にもたらしたことに変わりはないように思います。

展覧会は5月6日まで東京都写真美術館で開催されています。お時間のある方は足を運ばれてはいかがでしょうか。

Text by AYAKA