「鴻池朋子 隠れマウンテン&ザ・ロッジ展」

【ART REVIEW】

こんにちは。今日は中目黒のミヅマアートギャラリーで開催中の〈鴻池朋子 隠れマウンテン&ザ・ロッジ展〉を紹介します。文字通り登山をするように建物を上昇しつつ鑑賞するサイト・スペシフィックな作品が展示されています。ギャラリーが入っている5階建てのビルを架空の山に見立て、観客を自然界へと誘います。

まず2階の展示室に入ると、一面に山を描いた襖絵に出迎えられます。目を見開いた山の表情は少年とも少女ともつかぬもので、わずかに開いた口からは吐息が今にも聞こえそうです。鉛筆と水墨による描写は非常に細密で、あたかも山が現実に屹立しているかのような錯覚をおぼえます。しかしこの時点では山に臨んだのみ。更に山を登るうちに、レスキューストレッチャー、ビバークテントなどのインスタレーションと遭遇します。頂きに近づくと、20数枚にわたる鉛筆画が「ロングトレイル」という小路に並べられています。一枚一枚に短いテキストが添えられ、生命の危機をも招きかねない山での思わぬ事故や自然災害の場面が緻密に描かれています。ひとが足を踏み入れないような樹海へと場面は進み、テキストは肉体・精神のより深淵へと思索をめぐらせます。

今回の作品に着手したきっかけは、観客のことばだそうです。

「もしできることなら観客は誰でも作家のひたいを開いて、脳の中に入り込んで、その中の森を見てみたいものなんですよ。」

鴻池は自らの脳を形成する糸――物語を丁寧に解きほぐすようにして、観客との旅/対話を試みたのではないでしょうか。観客はロングトレイルの終わりにある襖を通過することで、ようやく頂上のヴィジョンを目にします。しかしそこで作品は完結しません。再度2階に下り、襖絵の裏側をご覧ください。そこには鴻池が見出した脳のイメージが描かれています。ぜひその姿を皆さんの目で確かめていただきたいです。ひとつだけ私見を述べるならば、彼女は自分をかたちづくっていた糸を、壮大な叙事詩に紡ぎなおしたのが今作ではないか、ということです。

この展示は5月17日(土)まで開催されています。ぜひ足をお運びください。

Text by AYAKA