動物写真家・星野道夫

【BOOK REVIEW】

星野道夫の仕事(全4巻)』(1998年、朝日新聞社)

大都会の片隅のとある図書館。何気なく表紙をめくった途端、私の目の前には、茫漠としたアラスカの大自然が広がりました。

人一人いない広大な大地。厳かに聳え立つ巨大な山々。純白の雪原を走るカリブーの群れ、お互いを温め合うように寄り添うシロクマの親子…

写真としての迫力も然ることながら、ページに織り込まれた言葉の一つ一つも力強い。決して写真の説明ではない、瑞々しい思惟の断片。特に印象に残ったのは、彼がこれ程までに敬愛した“自然”について語ったこの言葉です。

人間がどれだけ想いを寄せようと、相手はただ無表情にそこに存在するだけである。

どれだけ慣れ親しんだような気になっても、自然の中で人間だけが特別になることはない。クマと私、どちらが死んだとしても、それが自然というものなのだ。長い時間をかけて自然という“奇跡”に向き合ってきた星野さんの言葉は、私の心へとてもまっすぐに響きました。

日本を代表するジャーナリストの一人、柳田邦男も著書の中で星野道夫の写真と言葉の力について語っています。

写真がシーンの発見であるように、言葉は思索の発見である。(中略)彼にとって、写真と言葉はそれぞれに独立した不可欠の表現手段であると同時に、共鳴し合いそれぞれの意味づけを二乗倍深め合う表現手段だったのだ。

とても人気の高い写真家なので、作品をカレンダーやポストカードで目にする機会は多いと思います。しかし、写真集という「物語」に触れることによって初めて見えてくるものがある。私は彼の言葉に触れ、そう確信しました。

Text by NANASE