約束

【BOOK REVIEW】

那須正幹『The End of the World』(2003年/ポプラ社)
今日取り上げるのは、児童文学作家那須正幹です。那須正幹の名を聞いたことが無くても、『ズッコケ三人組』と聞けば分かる方が多いと思います。言わずと知れた同シリーズは、ハチベエハカセ、モーちゃんのやんちゃトリオが繰り広げるどたばたコメディとして高い人気を誇り、20年以上にもわたり刊行され続けてきました。大ヒットシリーズの作者ということで、一部では批判的な意味合いのもと商業的な作家として捉えられることが多いのですが、実は同シリーズの他にも、社会の諸問題を鋭い視点と独特の作風で描き出した作品を数多く世に送り出しています。大変興味深い作家です。

本書『The End of the World』は、2003年にポプラ社から刊行された短編集。今回はその中に収められているシリアスで衝撃的な一遍「約束」をご紹介したいと思います。「約束」は本書における改題で、1984年に発表された時は「六年目のクラス会」という題でした。

物語の舞台は、幼稚園を卒業してから6年目に行われたふじ組のクラス会。集まった13人の元ふじ組クラスメイト達は、幼稚園時代の思い出話に花を咲かせます。皆が楽しく昔の思い出を語らう中、誰かがそこにはいないあるクラスメイトのことを口にします。13人の子供達はそれを契機に、忘れかけていたある重大な“事件”について思い出していきます・・・

この話に登場する子供達は、決して日本の児童文学において長い間理想とされてきたような純真無垢な存在ではありません。大人もまた、人生の手本とすべきような存在ではありません。この作品は、従来の児童文学においてタブーとされてきた“理想的子供像、大人像からの逸脱”を見事に成し遂げ、そこに新たな可能性を付与しています。“人間はもともと純粋だけど大人になるにつれて汚れていくのだ”というような意識は、少なからず我々の心のどこかにある気がします。確かにそれはある側面においては事実です。しかし、実は子供には大人が思うよりもずっと残酷な部分があるのかもしれません。現にこの作品で取り上げられているようないじめなどの問題もあります。もちろん大人の責任を無視するわけにはいきませんが、殊児童文学に関して言えば、無垢で清潔な物語だけでは、人間は語れないのではないでしょうか。那須正幹の作品は、そんなことを考えさせてくれます。

児童文学という分類ではありますが、大人でも十分に楽しめると思います。ぜひ、ご一読を。
Text by NANASE