七尾旅人の音楽

【MUSIC REVIEW】

七尾旅人『ひきがたり・ものがたりvol.1 蜂雀(ハミングバード)』,2003年

今日は、鬼才の日本人アーティスト七尾旅人をご紹介します。1979年生まれの若い歌手で発表作品もそれほど多くはありませんが、その斬新な音楽世界は既に多くのアーティストに影響を与えています。簡単に紹介すると、
仏教徒。最終学歴小学校早退。好きなお菓子はビスコ他。嫁さんは里芋に良く似た気立ての良い女。(公式HPより)

2003年にリリースされた3rdアルバム『ひきがたり・ものがたりvol.1 蜂雀(ハミングバード)』は、弾き語り調に構成された静かで透明な音楽の物語です。このアルバムで七尾は1st、2ndアルバムとはまた異なる音楽的挑戦を試みています。メルヘンのような、奇妙な魔術のような、昨日、あるいは明日見るかもしれない夢の世界のような…幻想に溢れているのだけれど、確かに鋭い眼差しで現実を見据えている音楽。夜、一人きりの部屋で、アコースティックギターの優しい音色に絡みつく囁くような歌声を聴いていると、心の奥底で縮こまっていた世界の不思議が、わっと押し寄せてくるような気がします。特に好きなのは、2曲目「月の輪」。ゴーレムの悲劇を奏でたとても悲しい歌ですが、ただ悲しいだけではなく純粋な優しさと命の輝きに満ちています。

貪欲に新しい音楽を開拓し続けるアーティスト、七尾旅人。本作の次にリリースされた『911FANTASIA』も面白いです。ぜひ、全作品を通して彼の音楽的挑戦へのエネルギーを感じてみてください。

Text by NANASE