踊りたいけど踊れない

【BOOK REVIEW】

寺山修司/宇野亜喜良『踊りたいけど踊れない』(2003年,アートン)

>手は勝手に書いていた
足は勝手に踊っていた
とりのこされた
あたしはひとりぼっち

夜になっても眠れない

>もんだいは
あなたのなかに小さなもうひとりのあなたがいるかどうかということだけです

自分の体の中に閉じ込められてしまった少女ミズエの、たよりない初恋の物語。寺山修司の没後20年に完成された本書は、彼の童話と詩に友人の宇野亜喜良がイラストレーションを添えた、大人のための絵本です。二人のみずみずしい感性と卓越した表現力が織り成すポエティックで幻想的な世界は、読む者を極めて魅惑的な迷路へと誘います。1ページ1ページに存在する圧倒的な美と幽玄は、心に微かな恐怖心を抱かせるほどです。物語全体に刻み込まれたリズムはどこか不安定で心もとないのに、それらが作り出しているのは、ただ一つの、心地好い音楽なのです。

本書のあとがきで、宇野亜喜良はこう語っています。
ぼくのイラストレーションの中の叙情的な要素は、寺山修司の詩的エスプリにインスパイアされたものなのだろうと今更ながら思う。寺山修司との出会いがなかったら、今、どんな絵を描いていたのだろう。

確かな才能が重なり合ったとき、生まれ、広がるものがある。芸術と芸術の間に潜む、無限と永遠の可能性。そんなことについて考えてみる、秋の夜長なのでした。
Text by NANASE