きりのなかのはりねずみ

【BOOK REVIEW】

ユーリー・ノルシュテイン/セルゲイ・コズロフ/フランチェスカ・ヤルブーソヴァ『きりのなかのはりねずみ』こじまひろこ訳(2000年、福音館書店)

こんにちは。ますます冷え込んできましたね。こたつとみかんが恋しい今日この頃です。

さて、今日ご紹介するのはロシアの絵本『きりのなかのはりねずみ』。ロシアの世界的アニメーション作家ノルシュテインの短編作品をもとに、セルゲイ・コズロフがストーリーを執筆し、ノルシュテインの仕事・私生活上のパートナーであるフランチェスカ・ヤルブーソヴァが絵を担当し刊行された一冊です。

夕暮れ時、小さなはりねずみは友達のこぐまのもとへ出かけます。おみやげのいちごのハチミツ煮を抱えて歩いている途中、はりねずみの前に突然真っ白な霧が現れます。みみずくや白い馬、銀色の蛾など、不思議な動物たちが次々に登場し、どこか心地好い恐怖感と緊張感の漂う世界が作り上げられていきます。はりねずみが心を奪われる白い馬には、東山魁夷の油彩画を彷彿とさせる幻想的な美しさがあります。銀色の蛾のダンスは、私が一番好きなシーンです。

クリンクリンクリン
すずがなるようなかすかなおとがきこえてきました。
ぎんいろのががみんなでおどっています。
はりねずみもいっしょにおどりました。

小さな頃、道に迷って途方に暮れたことがあります。見慣れたはずの町が急によそよそしく思えて、心細くて、もう一生家には帰れないんじゃないかと本気で心配したのを覚えています。だけど心のどこかには、一人きりで挑む壮大な冒険を楽しんでいる気持ちもあったように思います。見慣れたものがよそよそしいからこそ、体中の感覚が研ぎ澄まされて、そこに初めての感覚や出会いが生まれるのです。道ばたの石ころや、雑草、蟻の行列、野良猫、道路標識…思えば、迷子をきっかけに友達になったものは多いような気がします。少しの恐怖と少しの冒険心。そんなものを思い出させてくれる一冊です。

Text by NANASE