Psappの音楽

【MUSIC REVIEW】

Psapp『THE ONLY THING I EVER WANTED』,2006年

今日はイギリスのエレクトロニック・ポップ・デュオ、Psapp(サップ)をご紹介します。彼らの作り出す音楽は少し変わっていて、使われるのはおもちゃの楽器、ぬいぐるみ、灰皿など個性豊かなガラクタたち。ロンドンの中心部キングス・クロスにあるという彼らのスタジオには、ユニークな“楽器”たちが所狭しと並び、いつも不思議な音楽を奏でているそうです。本作はドミノ・レコードからリリースされたセカンド・アルバムです。

ガリア・デュラントの囁くような歌声に絡む、柔らかな静寂とノイズ。一定のリズムを心地好く刻む、カラフルなガラクタたち。彼らの音楽を聴いていて思い出すのは、例えばまだ小さな子どもだった頃、夜中に一人内緒で出かけた夜の散歩のこと。暗闇を吹きぬける冷たい風と、異様に静かな公園、車のいない車道、意地悪そうな木々たち。あのときの心に入り混じっていたのは、泣きたくなるような不安感と、何にも変えがたいわくわく感。Psappサウンドには、そんな懐かしい楽しさが溢れています。

私は常日頃、できればずっと、子どもの頃の自分を忘れたくないなと思っています。あらゆることが不思議で、あらゆることが全力だった、あの頃。時々思い出すと胸がドキドキして、温かくて透明なノスタルジーが私の全身を包むのです。そしてきっとそれは、私にとってとても大切な時間なのだと思います。Psappは決して子どものための音楽ではないのですが、彼らの透明で瑞々しい感性に彩られた旋律は、そんな大切な時間を私にくれるのです。

Text by NANASE