愛しのチェブラーシカ

【ANIMATION REVIEW】

もじゃもじゃの毛に、大きな耳、まんまるい目。ぽてぽてとした歩き方に、甘くて子どもっぽい声。一度見たらちょっと忘れられない、正体不明の変てこな生き物。それが、チェブラーシカです。

ミカン箱に運ばれて遠い国からやって来た小さなチェブラーシカは、自分の正体が分からず、動物園に連れて行かれるも“正体不明”と拒否され、泣く泣く街の電話ボックスで暮らし始めます。そんな時、動物園で“ワニとして”働くワニのゲーナに出会います。彼もまた孤独なワニで、友達を探していたのです。そして二人の友情は、冷え切った街にささやかだけど温かい“友達の輪”を広げてゆくのでした・・・

物語に登場するキャラクターたちは、なぜか皆家族のない一人ぼっちで、それぞれが動物や人間の枠を超え“ただひとつのいきもの”として、自由で優しい友情関係に結ばれています。原作や映画の翻訳を手がけた翻訳家の児島宏子さんは、当時ソ連にたくさんいたと言われる戦争孤児の存在に言及しています。この作品には、戦争によって親や兄弟を奪われ、たった一人で生きていかなければならなかった子供たちへの励ましのメッセージも込められているのかもしれません。他にも“ピオネール”(ソ連ボーイスカウトのようなもの)や公害問題、教育制度など、1970〜80年代当時のソ連の社会背景を反映した場面や表現が数多く登場しますから、日本人の私にはとても新鮮で興味深いです。第一、ワニが動物園で“ワニとして”働くなんていう発想自体、日本ではなかなか生まれない気がしませんか。

監督は、以前このレビューでもご紹介したロシア・アニメーション界の巨匠ユーリ・ノルシュテインの師であるロマン・カチャーノフ。彼は子どもの不安や孤独をテーマとした作品を数多く残し子どものための芸術を確立した偉大なるアニメーション作家です。また『チェブラーシカ』の魅力はウラジーミル・シャインスキーの担当した素晴らしい音楽にもあり、ロシア独特の哀愁漂うメロディと切ない歌詞はとても印象的です。なお、チェブラーシカの製作にはノルシュテインもスタッフとして参加しています。

昨年、短編全4話を収録したデジタルリマスター版DVDがSTUDIO GHIBLIから発売されましたので、チェブラーシカの可愛さにきゅんっとしたい方は、この機会にぜひ一度ご覧になってみてください。

Text by NANASE