山本容子さんと「本の話 絵の話」

ppbks2009-02-04

【BOOK REVIEW】

こんにちは。今日は銅版画家山本容子さんによるエッセイ『本の話 絵の話』をご紹介したいと思います。山本さんは銅版画家としてのみならず、絵本、本の装丁、音楽ホールや壁画制作など、幅広い分野で活躍する、いわばマルチアーティスト。私は特に彼女の絵本が大好きです。今回は触れませんが、『おこちゃん』なんかは素晴らしい絵本です。

カポーティジョイスシェイクスピア、ヴィアン、チャペックに森鴎外宮沢賢治太宰治…世界各国の文豪72人が登場する本書は、山本さんの読書論であり芸術論です。登場するのは世界に名立たる巨匠ばかりなのですが、彼女の文章と絵を追っていると、なぜかそんな巨匠たちがよく気の知れた友人であるかのような気持ちになってきます。私は文学に限らず芸術全般は誰もの人生にとってごく身近な存在であるし、そうあるべきだと思っているので、そんな山本さんの軽やかで洒脱な視点に深く共感しました。

山本さんは文学を題材とするとき、その世界にどっぷりと浸かりすぎないよう常に自分なりの捉え方を意識すると言います。本書で解説を担当している作家の小林恭二さんは、彼女の絵を「波打ち際で戯れて遊んでいるようだ」と評しています。山本さんはそれについて同感し、こう述べています。
海がどんなものかを知らなければ、波打ち際もないわけですから、本のなかへ入っては行く。しかし私の絵の仕事は、あくまで波打ち際の戯れでありたいと思うし、その戯れ方を見てほしいと思うんです。

絵画における“イズム”ごっこを真っ向から否定し、あくまで描くことの喜びや楽しみ、世界と気軽に“戯れる”ことにこだわる山本容子さん。どんな分野においても、変幻自在でありながら圧倒的で不変な個性を放ち続ける彼女の魅力の秘密は、その信念あるのかもしれない。そんな風に思いました。
写真:山本容子『本の話 絵の話』(2006年、文藝春秋)

Text by NANASE