くまとやまねこ

ppbks2009-02-11

【BOOK REVIEW】
湯本香樹実/酒井駒子『くまとやまねこ』(2008年、河出書房新社)




ある朝、くまはないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです。

物語は、こんな悲しい言葉から始まります。くまは、仰向けになったことりの前で呆然と座り込み、ただひたすら涙を流しています。

誰にとっても、大切に思っている人や動物を亡くすというのは、とても辛いことです。死を素直に受け入れることは、全ての生きる者にとって容易いことではありません。冒頭の1ページを見ただけで、あの、涙の重みでゆらゆらと揺れる視界や、生暖かい涙が頬をつたって唇へと流れる感触、少し塩辛い味、そして眼前に果てしなく広がる忌まわしい悲しみの闇が、ずんずんと私の心に迫ってきます。私は思い出すのです。ああ、大切なものを亡くすっていうのはこんな感じだったな、と。

あらゆる命は、それが誕生した瞬間からやがて迎えるであろうただ一つの死へと向かって歩き出します。生は死を前提として生まれ、死は生を前提として訪れるのです。“死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。”―村上春樹の小説『ノルウェイの森』の冒頭に登場する一節ですが、私は死や生の問題について考えるとき、よくこの言葉を思い出します。そして考えるのです。果てしない命の広がりと、必然としての死の広がりについて。太古から脈々と受け継がれる命の連鎖は、脈々と続く死の連鎖でもあります。命が美しい躍動である限り、人間が死に向き合わないことなど不可能なのです。

物語のラスト、くまはやまねことの出会いと彼の奏でる音楽によって救われ、再び生きることに希望を見出します。くまは、きっと前よりもずっと強く優しいくまになったのでしょう。この絵本の素晴らしいところは、文章と絵の一つ一つが見事なまでに絡み合い、尊重し合い、心地よく呼応し合っているところ。絵本という芸術にとって最も大切なことを、素晴らしい形で満たしているのです。命を扱った絵本は数多くありますが、その中でも特に心に深く残る一冊です。

Text by NANASE