不思議な世界

ppbks2009-02-26

【BOOK REVIEW】
山田太一編『不思議な世界』(1993年、筑摩書房)

UFO、宇宙人、妖怪、もののけ・・・この世界には人知では計り知れない不思議なものや現象が数多く存在する。程度の差はあれ、きっと誰もが一度はこの世の不思議について考えたり、何らかの形で経験したりしたことがあるであろう。

小学生のとき、一人きりで留守番をしながら、おやつに食べるゆで卵の殻をむいていたことがあった。あと少しで全ての殻がむけるというその時、加熱してあるはずのゆで卵の内側の方から、かすかに“ピーピー”という小鳥の鳴き声が聞こえたのだ。私はすっかり怖くなって卵を投げ捨て、わんわんと泣き喚き、しばらく後に帰宅した母にひどく呆れられた覚えがある。

この体験を人に話すと大概の人は嘘だと言うし、私自身も、あの声の正体が一体何であったのかさっぱり分からなかった。しかし、確かにその声が聞こえたから、私は大好きなゆで卵を捨てたのであって、声が枯れるほど一人泣き喚いたのである。

正直に言うと、長い間忘れていた話だ。私は今でもゆで卵が大好きだし、それ以来あの声が聞こえたことは一度もない。先日『不思議な世界』を読んで、はっと思い出した。長い年月を経て、あれ程怪奇で不思議だった事件が、私の中ですっかり小さな記憶の欠片になってしまっていたのである。

本書に収められている不思議なエピソードの中でも、特に内田百輭向田邦子松谷みよ子などのものには、私はどうしてもあの“ゆで卵事件”を重ねずにはいられない。信じる、信じないという問題以前に、とある不思議が、何の前触れもなしに、現実生活の中にぽっかりと現れることがある。それらはまるで、出番を間違えて舞台にひょっこり現れてしまった俳優のような、何だか滑稽な存在に思われる。

私は“不思議な世界”を少し信じるし、少し信じない。“ゆで卵事件”は現実として受け入れるしかないが、だからといって無抵抗に何でも信じるわけにはいかない。ただ、この世界の裏側に、もしかしたら私が永遠に知ることのできない、この世のルールなど微塵も通用しない、とてつもなく大きくて不可思議な世界が広がっているのかもしれない。そんなことを、毎日、思ったり、思わなかったりしているのだ。

Text by NANASE