寺山修司編著『日本童謡詩集』

【BOOK REVIEW】

寺山修司編著/宇野亜喜良装丁『日本童謡詩集』(1992年、立風書房)

以前、スウェーデンの童謡集についてレビューを書いたことがありますが、今日は一風変わった日本の童謡集を取り上げたいと思います。

寺山修司が編著を担当した本書『日本童謡詩集』は、ただの“童謡”集ではありません。選定の基準は「それが子供のために作られたものかどうか」ではなく「それが子供とともに在った唄かどうか」です。だから、唱歌やわらべ歌に限らず、軍歌やテレビ番組の主題歌など、幅広い曲が収載されています。

プロローグで寺山は自らのユニークな童謡体験を紹介していますが、誰しもそれぞれの童謡体験を持っていると思います。私の場合、小さな頃によく遊びながら歌った「あーぶくたった煮えたった」の歌や「どんぐりころころ」などが心に残っています。大人になった(年齢上は…笑)今でも、時折それらを口ずさむと、微かですがあの頃の気持ちや私の周りに漂っていた空気や匂い、感触などを思い出します。それが全て良い思い出とは限りませんが、歌というのは不思議なもので、意識せずとも人それぞれのフィルターを通して聴こえてくるものなのです。寺山は言います。「唄は、もはや音楽などといった一ジャンルにとどまるものではなく、社会全体を想像力のなかで再組織してゆくドラマツルギー」であると。

本書に収載された童謡詩を読んでいると、「日本には素晴らしい歌がたくさんあるのだなあ」と改めて気づかされます。悲しい思い出やその時の社会背景、言葉遊びや季節の情景、いろいろなものがごちゃ混ぜに詰め込まれた“童謡”は、いつだって「人の営み」というものの面白さを教えてくれるのです。

Text by NANASE