ひかりのまち

【MOVIE REVIEW】

ひかりのまち』(マイケル・ウィンターボトム監督、1999年)

スタッフのリーサさんにおすすめされて観た、マイケル・ウィンターボトム監督の『ひかりのまち』。作品の原題は「WONDERLAND」ですが、「ひかりのまち」という邦題が素敵だと思います。

ストーリーの舞台は、ロンドンの街角。気持ちのすれ違う老夫婦と独立した子どもたちそれぞれの、何と言うことはない、とある週末。それぞれの日常の些細な出来事の中に滲み出る複雑な感情や事情を、独特なリアリスティックさをもって描き出します。映像にやさしく溶け出す、マイケル・ナイマンの繊細な音楽も魅力的です。

この世界に生きている限り日々生まれ来る、些細な変化や新しい出会いや多様な感情。私たち誰もがゆるやかに共有している、同じ時間や空間、「もしかしたら明日出会うかもしれない」という奇跡の可能性。同じような日常に見えても、世界はダイナミックに躍動しています。規模は違うものの、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』が描き出すものとの共通性を感じました。

特別にドラマチックで感動的な映画、という訳ではありません。特別に悲劇的あるいは幸せな結末のある映画、という訳でもありません。ただ、人と人の心が触れ合うとき生まれる、些細だけれど圧倒的な美しさ。そんなものの存在を、とても優しい温度で、それとなく、思い出させてくれる作品だと思います。

Text by NANASE